撫でれば犬は絶対喜ぶ?

「あなたが愛犬をなでているとき、愛犬も喜んでいる」。本当に自信を持ってそう言えますか?

問題行動の改善で飼い主さんのお宅へ伺ったときに、私は、犬が自分から近づいてきてくれるまでは、こちらから近寄ったり、手を伸ばしてなでることはしません。彼らは私を怖がっているかもしれないし、怖かっていなくても「さわってもらいたい」と思うほど信頼していないかもしれないし、最初は十分私を観察したいかもしれないからです。それは、犬に対するリスペクトを表現する私なりの手段だと思っています。

玄関に入ったときにうれしそうな表情で飛びついてきて(それが良いことか悪いことかは、ここではふれないでおきます)、手にじゃれついたり、顔をなめてくれたり、熱烈な歓迎を受けた場合には、私も喜んでお受けします(笑)。

ただし、「うれション」と呼ばれるようなおしっこを漏らしてしまう犬の場合には、興奮させないようにすることが大事。本当はさわりたいのですが、心を鬼にして控えることもあります。そういうときは、できるだけ落ち着いたトーンで声をかけてやるだけにしています。それでも漏らしていよう犬もいるので、要注意ですが(笑)。

少しでも警戒するそぶりが見られる場合には、犬と目を合わせたり、声をかけたりするのはできるだけ控えるようにしています。部屋に入っていくときも、犬の警戒心を刺激しないように、手足の動きをできるがけ最小限にとどめ、ゆっくり動くようにしています。

怖がりな犬だと、私の周りをうろうろしながら吠えてくる塲合もあります。私が少しでも彼らに近づこうと動くと、慌てて逃げることがほとんど。それでも気になるのか、私のそばに来るのですが、そんなときは彼らと目を合わさず声もかけず、絶対にこちらから手を出さずに無視するようにしています。

すると、後ろ足が引けながらも、テーブルなどの下からそっと私の膝あたりを嗅いで、私の存在を確認しようとすることが多いです。

 

このとき、近づいてきてくれたからといって手を出すと、一気に信用を失いますので、さわるタイミングはじつに難しいです。その日はさわらないほうが、次回仲良くなれるのが早かったりもします。

ついこの間の話ですが、怖がりがひどいトイプードルがいました。最初のレッスンでまったくふれ合えなかったのですが、ひとしきり臭いを嗅いで、私かさわってこないことを理解すると、後ろ足は引けながらも、私の膝に前足をかけられるくらいにはなってそこからトイプードルのしつけのレッスンができるようになりました。

そんな姿を見て「本当は仲良くなりたいんだな」と思うと、とても愛おしくなります。その様子を見ると、大体の飼い主さんは驚さます。「こんなに早く人になつくのは初めてです!」と。なついていると言えるほどではありませんが、心を開きつつあることは確かですね。さわらないことで伝えられる、犬との会話もあるのです。

そう思って世の中の「人と犬事情」を見直してみると、自称「犬好き」と言っている人ほど、犬の気持ちを無視して、嫌がる犬を強引に抱いたり、上から覆いかぶさって自分勝手な強さでワシャワシヤとなでたりする人が多いように感じています。そんなときの犬を見ると、明らかに嫌がっていますし、力-ミンクシグナルもたくさん出していることが多いのです。

よほど嫌だと、うなったり威嚇噛みしてくる犬もいます。もちろん、そんなそぶりを見せると、飼い主に厳しく叱られてしまうのですが、犬の立場から考えたら何と理不尽なことでしょうか。

犬たちは、私たちが思っているほど「なでられたい」とは思っていません。飼い主さんにすら、「今はなでないで、もうこれ以上はやめて、そんなに気持ち良くないよ!」というボディラングージを出している犬はたくさん見受けられます。飼い主さんがそうなのですから、まして他人からなでられてうれしい犬なんて、どれくらいいるのでしょうか?

問題行動のお悩み解決のための出張トレーニングでは、他人からなでられるのが好きではない犬が多いのは仕方ないと思います。しかし、グループレッスンで出会う犬たちだって、「他人が嫌いなわけではないけれど、とくになでられたくはない」、「できればなでないでほしい」と思っている犬は、かなり多いと感じています。

人間と違って言葉をコミュニケーションの手段として使わない犬たちともっと仲良くなるためには、こちらの気持ちを押しつけてはいけません。もっともっと愛犬の様子や動きなど繊細に観察して、彼らをできるだけ理解して、こちらからもボディーラングージで上手に伝えてやれるよう努力してみたら、今よりもっともっと仲良くなれるかもしれません。